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TPPと知的財産権

TPPの話が盛り上がっている。その中で、先頃アメリカが先発明主義から先出願主義に転換したことを引き合いに出しながら、TPPの交渉において日本がアメリカの特許制度をさらに世界標準に近づけるべく積極的にリードしたらよい、というような意見があった。この意見は、世界各国の特許法とその運用をまったく知らないことに拠る。
日本における特許法とその運用は、一言で言えば、出鱈目。一方アメリカにおける特許法とその運用は、質の点でダントツの世界ナンバーワンである。世界各国の特許実務に係わる人であれば、誰でも承知していることである。
Aさんは、いままで世の中に存在していない画期的なアイデアを思い付いた。そして、そのアイデアの詳細を業務日誌に書き込んだ。Aさんは、嬉しさのあまり、飲み屋で友人にそのアイデアの話をした。その飲み屋で、Aさんの近くにたまたま居たAさんとは赤の他人のBさんの耳に、Aさんのアイデアの話が聞こえたきた。Bさんは、そのアイデアについて、これはいいと思い、翌日早速特許出願をした。
Aさんは、アイデアの製品化を考えると、特許出願をしておくべきと思い、それを実行した。しかし、Aさんが特許出願をしたのは、Bさんが特許出願をした一週間後であった。
日本の特許法はドイツのものをパクッたので、先出願主義である。つまり、同じ発明の複数の出願のうち、最初の出願にのみ特許が許されるのである。このため、特許が与えられるのはBさんであって、Aさんではない。Aさんは、Bさんが飲み屋でたまたま自分の話を聞いてしまい、自分の許可無しに特許出願をした、と思うはずもなく、またそのことを証明できるはずもない。おまけに、Aさんがアイデアを製品化して売り出した場合、Bさんに特許侵害として訴えられれば、AさんはBさんに特許使用料を払う羽目になるのである。
先発明主義とは、同じ発明の複数の出願のうち、最初にその発明を成した人の出願にのみ特許を許すというものである。上の例では、Aさんに特許が与えられるのである。ただし、Aさんはアイデアの詳細を記した業務日誌を証拠として提出し、自分がアイデアを成した日がBさんの特許出願の前であることを示す必要がある。このように先発明主義とは、最初に発明した人を特定して、その人にのみ特許を与える、というものである。
これに対して先出願主義は、審査する側にとっての都合を優先したものである。上の例で言えば、Aさんの特許出願の審査はとても簡単である。Aさんの特許出願の前に出願されたものや公知となったものを検索して、Aさんの特許出願の発明と同じものを探せばよいのである。すぐにBさんの特許出願が見つかるはずだ。見つけたら、Aさんに対して、あなたの特許出願の発明はあなたの特許出願よりも前のBさんの特許出願の発明と同じであるから、あなたの特許出願を拒絶する、と言えばよいのである。
そこへゆくと先発明主義で特許制度を運用する場合、審査する側の手間隙は大変なものである。アメリカ特許庁の審査部門は、同じ発明の複数の出願があった場合に、それらのうち最初にその発明を成した人の出願を特定するという複雑で難しい作業を、インターフェアランスと称して、延々とやり続けてきた。最初に発明した人にのみ特許を与える、という特許制度の基本理念を守るために。なぜ複雑で難しい作業かと言うと、複数の出願した側から提出される夥しい証拠類を精査し、その上で公平な判断を下さなければならないからだ。
上の例からも分かるように、先出願主義は審査する側が楽になるので、不正特許取得は大目に見ますよ、ということなのである。TPPとは関係無しに、特許制度の基本理念を守るために、日本は先出願主義から先発明主義へ転換すると宣言し、これを忠実に実行すれば、世界は日本を少しだけ見直すはずだ。しかし残念ながら、無能官僚や無能国会議員にそれは無理な注文。
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